夢中夢『イリヤ―il y a―』 ≪評価:4−≫

イリヤ-ilya-
前作『夢中夢』以来、二年振りの2nd。ひとまず一聴した感じだと、前作よりも音楽性の幅は大きく広がってるなぁと。メタルやらクラシックやらポストロックやらを混ぜ合わせた音という点は前作から変わってないけれど、割と静と動の対照一辺倒で、退屈に感じられる部分もあった。今作はジャズチックなドラムや進行なんかも取り込んで、それからただひたすらクラシカルな美しいメロディーだけでなく、若干、ポップ、というか歌謡曲的なメロディーも顔を覗かせつつ、彼らなりのカオティックな世界が構成されております。でも正直、ちょっと曲の中に展開を詰め込んでいて、全体的に散漫なところが無きにしも非ず。曲単位で見ると良いけれど、アルバムを通して聞くと胃にもたれる、そんな感じを受けました。実際、何度か聴くと曲の好みというものがはっきりしてきて、アルバムというよりは好きな曲を選んで聴くという形に個人的にはなっています。最近、知名度があがっているようなので、これからどう活動していくのかも楽しみです。

ZAZENの新譜を聴いて、もやもやとする。どうなんだこれは。とっちらかったものをまとめる強いものがないような。54-71の新譜を聴いて、にやにやとする。初期のFUGAJIから音を抜いていったようなストイックな曲。これは強い、ね。
でもとりあえずはneco眠る夢中夢SFUの新譜を買う。や、出先だったから。54-71の、重いんだよ。neco眠るの脱力お祭りダブ・ファンクのスカスカ感は、日曜にちびまるこちゃんとサザエさんをのんべんだらりと見ちゃった自分に対してエエジャナイカと言えるような感じがある。
ここ最近のくそつまんねー自分と自分のしていることに目を背けたくもなるけど、そんな状況でこの頃のSFUの優しさは沁みる。54-71の強さには顎を持ち上げられた気がする。そのせいか少しずつ、ちゃんと音を聴こうという姿勢になってきた。いや、「音」を「楽」しむことを普通に感じられるようになってきた。「音聴」じゃなく「音楽」なんだよな。

後藤和智『お前が若者を語るな!』

おまえが若者を語るな! (角川oneテーマ21 C 154)
パラパラと読む。ま、著者が問題にしていることはわかるし、確かに枠組みありきの立論や、実証性が必要にも関わらずそれがないものなどは批判されてしかるべきだろう。ただまぁそれだけで全部批判した/できたことにはなんないよなっていう。実証性が必要なものと必要でないものがあるはずで、批判する前にそこを見極めないと、批判する側もまた「枠組みありきの立論」に陥るし、この本もそうなっている部分があるんじゃないかな。
と言っても批判されている人物の言説を全て追っているわけではないので、かなり印象論になってしまうかもしれないけれども、それを感じたのは東への批判部分。例えば東の『動物化するポストモダン』というのは、実証性が必須の論ではないはず(あれは「動物化」のわかりやすいサンプルに過ぎない気が)。「環境分析」についても著者は単なる世代論として言及するけれど、そんな単なる社会反映論として東は立論してないはずで、あれはむしろ「構造分析」に近いんじゃないかな。あ、「構造分析」も東のところで批判的に使われていたけど。あと東が精神分析を意識して書いてることも見てないし。むしろここで批判、というか問題にするべきは東の論やキーワードを微妙に読み替えつつ(あるいは誤解しつつ)、別の文脈に適用していく流れや、なぜそれが力を持ちえたのかというような点じゃないのかね。つまり著者は、東を「「ゼロ年代のアカデミズム」の先導者」としているけれど、東の言説に「客観性がない」のになぜそれが広汎に受け入れられたのかを探るべき。単にそれが典型的な世代論だったからというのは、「枠組みありきの立論」になってしまうだろう。他の論者についてもその方が建設的じゃないだろうか。
著者のスタンスも論旨もほぼずれていないだけに、言説分析としてかなり甘い部分が散見されることが残念。ちなみに新書という媒体の性質上、それはしょうがないということもできるけれど、著者自身、批判する言説が乗っかっているメディアの性格や文脈をきちんと考慮に入れてないように思われるので(だって「ギートステイト」はSFでしょ)、それを言ってしまうとこの本自体の意味がなくなってしまう。もうちょっとじっくりと言説分析したものにすれば、いいものになったと思うんだけど。

恩田陸『夜のピクニック』 ≪評価:2+≫

夜のピクニック
ふむ、長い間、放置していたのをなんとはなしに読んでみた。文庫もすでに出ているけれど、読んだのはハードカバー版なので、画像もそれに準じた。ある目的地までの距離と、主要人物の心理的距離を重ね合わせる、つまりはいわゆるメロドラマ的設定を恩田陸らしく、小奇麗にまとめている。しかしそれ以上に何も感じず。しいて言うならば、学校行事という形式にした辺りが面白いと言えば面白いのだけれど、あまりその設定を上手く生かしきれてるようには思えなかった。青春小説として悪くはないけれど、特に絶賛できるような部分もなかった、というところで。