門前典之『浮遊封館』 ≪評価:3−≫

浮遊封館<ミステリー・リーグ>
こちらも久方ぶり。自費出版の『死の命題』を除けば、『建築屍材』に続く、7年ぶり(?)のデビュー第二作。一言でいえばバカミス。しかしまぁ帯にある「怪作」という言葉が似合うか。そもそも作者にあまりトリックを隠そうという気がないのか、タイトルからして、結末近くで提示される謎など多くの人がピンとくるだろうというもの。むしろ作者が提示したかったのは、結末で明かされる事件を貫く構図なんだろう。この構図には、作者のデビュー作にすでに顕在化していた、モノとしての人間という視線がモロに感じられて興味深い(階段のやつです、読んだ人はわかるはず)。ただこうした構図だけでは、あまり本格ミステリではないと感じた作者がなんとか埋め込んでみましたといった感じの中盤における準密室殺人で、正直、別にこれはない方が作品としてまとまったんじゃないかと思いつつ。以下、全体の構図に触れてます。
建築物が人体に擬せられるのはよくあることだけれど、それを地でいってしまった、というよりも突き詰めて裏返してしまった今作。ただいくら新興宗教だからといって、あまりにも杜撰というか何の意味づけもないその目的。人骨に付き纏うアウラ的なものを一切、排除しているそれが、逆に作者の「モノとしての人体」への興味を浮き上がらせている、というのは言いすぎか。宗教を持ってきたのは、これがある程度、実際に可能かどうかを考えたとき、無理もないこととはいえちょっと安易な方法だったのでは。まぁしかし何百体分の人骨を建築材にしてしまうという悪魔的な発想は、そもそも「モノとしての人体」を書いてきた本格ミステリでしかなかなか書けないことだとは思う。つまりそれに対して過剰な意味づけの必要性を欠いているジャンルという意味で。でもそうすると、この構図が本格ミステリ的な結構と緊密に噛み合ってないのは失敗なのではないか。まぁやっぱ「怪作」だな。むしろ作者の興味を前面化したあと、どういう方向性に行くのかが気になる。