谺健二『肺魚楼の夜』 ≪評価:3−≫

肺魚楼の夜
こちらは久方ぶりですね。『未明の悪夢』以来、一冊を除いて、繰り返し阪神大震災後の神戸を舞台に本格ミステリを書き続けてきた作者による新刊。やはり神戸が舞台、しかも『赫い月照』に続くシリーズもの。
端的に言って、メインとなる事件とその解決は一時期の島田荘司を髣髴とさせるような内容であり、その後にある、一つのトリックもさしたる驚きはない。
思えばこれまでの長編作品においては、トリックが震災と不可分に繋がっていたけれど、今作ではそこが非常に弱まっているという点が物足りなさを覚えるところか。ただ異なる視点から見ると、今作ではおそらく「孤独」というものが主題となっていて、それはもちろん震災以後も生活をする人々にとって重要な問題としてあるもの。このテーマを、作者は本格ミステリの構図を用いて書き出そうとしているのだと思う(それは『恋霊館事件』でも前景化していた)。それは、「怪物」の棲家に放置される探偵役や、あるもののなかに押し込められる女子高生、生き埋めにされる女子高生など様々な形で描かれており、最後にあるトリックもまた同様といえる。シリーズ前作において、主人公である探偵はパートナーを失うことになったけれど、その「孤独」というものもここに取り込まれている。こうした点は、震災直後、ではなく、震災以後、をテーマにする、というかせざるをえない場合、上手く処理していると思う。ただその解決はあまり上手くなく、昇華しきれていないように感じる。まだシリーズは続くようなので、どのように答えを出すのかに注目(震災というものに終わりはないわけだけれど、シリーズが終わるとするならそこで安易な結着をつけて欲しくはない)。