道尾秀介『ラットマン』 ≪評価:4≫

ラットマン
あぁ、シンプルでいいミステリを読みました。以下、構造を簡単に。
これまでの諸作でも窺えたけれど、構成そのものに道尾の上手さがある。本作ではシンプルになることによってそれが際立ったのかなという感じ。冒頭から「模倣」というものを軸に据えることで過去の事件と現在の事件を重ね合わせて読むように読者に強いておいて、それがミスディレクションになっているという周到さ。まず倒叙ものと思わせておいて、実はそうではないという反転があり、さらに主人公の考えとは異なったという反転があるわけだけど、ここで道尾はまず倒叙ものと読者に思わせて読者を主人公と同じ位置にいるかのように錯覚させる。しかし実は主人公は読者よりも一段高い位置にいたという仕掛けによって、第一の反転というか驚きを起こす。そしてさらにその仕掛けを明かして今度こそ主人公と同じ位置になったという読者を、今度は主人公と共に位置を転落させることで第二の驚きを生むという形になっているわけだ。しかもここに過去と現在の事件の重ね合わせが加わる。上で見た主人公の位置の変化がこれと密接に結びついている辺り、構造だけ見るとシンプルなんだけどそれをそうと思わせない造りになっている、と思う。ちなみに人間を描く云々にかんしてはよくわからないのでスルー。