鳥飼否宇『官能的』 ≪評価:4+≫

官能的――四つの狂気 (ミステリー・リーグ)
いやぁ鳥飼否宇のスタンスっていいですね。
短編三本+それらを繋ぐ一本という、一時期、創元社がお得意としていた連作短編集。それぞれのタイトルがカーのオマージュになっている(そういえば『密室と奇跡』にも書いていましたね)。とりあえず手法的な点で言えば、やはりひとまずのところ探偵役である増田教授の妄想推理に注目。様々な方法で「変態」する(させられる)増田が、それによって頭の回転が一気に増して推理を始める、という時点で既に楽しいけれど、そこに作者らしく、もう一段階の捻りを加えてある。
犯人の指摘はするものの肝心の推理が外れているというこの手法は『逆説探偵』でも使われていた(と思う)けれど、この作者の探偵役に対するシニカルな一面を垣間見せている(というかこの作者のほとんどのミステリにそれが窺える)。また最終話でオチを付けるという趣向も、この作者が割りと用いるものであって、実は彼のスタンスがかなり凝縮された作品ともいえるかもしれない。最終話に向けての穴というか伏線というか、は、かなりあからさまではあって(「囁く影が」などわかりやすいか)、「クロちゃん」の存在も含めてそれとなく展開が読める。それでもこのオチまでは読めないだろう(僕はサルだと思っていた)。とはいえ、増田の推理自体もトンデモな部分はあるとはいえ、それなりに考えられていて書きようによってはそれで十分、短編として成立するもの。その辺りはこうした作品ばかりでなく、かなり堅実なミステリも書いている作者の強みだろう。それがあるから、ちゃぶ台返しが楽しい。最後の落とし所に唖然とするか怒り出すか笑い出すか等々は読者の自由だけれど、本を置く前に改めて表紙と表紙裏の紹介を読むべし。このようなカーへの愛情?の示し方があっただろうか。まさかこれを『本格的』から考えてたのだろうか。次作が楽しみです。