『凶鳥の如き忌むもの』三津田信三 ≪評価:3+≫

凶鳥の如き忌むもの (講談社ノベルス)
前作『厭物の如き憑くもの』が面白かったのだけど、今作は今ひとつか。前作は根幹のトリック自体には大きな驚きはなかったものの、日記や取材ノートなどいくつかの異なるタイプのものを事後的に纏め上げたという体裁とトリックがそれなりに絡み合って効果を挙げていて、同時にそれは怪奇現象や禍々しい雰囲気を作り出すことにも一役かっており、上手いという感想だった(前作の評価は≪4≫かな)。しかし今作はそうした構成に対する意識はあまりなく、少し残念。とはいえこれは「はじめに」でもうっすら言及されているように、前作に比べよりミステリ然とした事件を扱っているからでもあるだろう。一種の社会的心理的クローズドサークルだった前作では可能でも、物理的なクローズドサークルである今作では必然、謎に対する焦点の当て方は絞られてしまう。トリックとしては下手するとバカミスなのだけど、前半での民俗学的言及によってあり得るという判断をしてしまう辺りは、九〇年代からの伝統とでも呼べる作品。もう少し前半部分で伏線を出しておいてもいいんじゃないかと思うけど、手堅くまとまった本格ミステリかなぁ。
しかし前作のホラー的部分が非常に好みだった自分としては、「はじめに」で言及されている「九つ岩石塔殺人事件」を読みたいのですが。これは本ミスベスト10で名前だけ挙げていた『悪霊の如き祟るもの』とは違うんですかね。