『ギブソン』藤岡真 ≪評価:3+≫

ギブソン (ミステリ・フロンティア)

その日はこれまでと同じ一日の筈だった。早朝6時に部長を迎えに行き、ゴルフ場へと送り届けるという。しかしその日、部長はそこにいなかった。目撃者によるといつもより30分早く待っていたらしい。それから部長はどこへ行ったんだろう? 選択肢は三つ、「右の道」「左の道」「正面の道」。それぞれの道を調べると奇妙なことが次々と起こっていた。サイレンを鳴らさずに走る消防車、血痕と共に消えた老人、過保護な親とストーカーの息子、そして銃声らしき音・・・。これらのことがどう組み合わさるんだ? そして尊敬する部長はどこなんだ?

ゲッベルスの贈り物』でその拘りに満ちた作風を披露し、『六色金神殺人事件』でミステリ読者の度肝を抜いた作者の四年振りの第三作。むぅ、なかなかに面白かった。が、なぜか灰汁が抜けた感じがするなぁ。いや真相なんかを見てもアクがあるのはあるんだけど、どこか物足りなさが・・・。たぶん、前作で感じたようなそこまでやるかっていう驚きともあきれともつかないようなものがなかったんだな。
終盤に至るまで、様々な謎や事件が放り出されていてそれらが収斂する、と思いきやうっちゃりをくらわされて。で上記のような感想が出てくるのはそれらが一つの真相に収斂しないから。ある意味で非常に裏をかいてるんだけど、悪い意味でのあきれを感じたかも。部長が選んだ選択肢に関してはわりとすぐに見抜ける人もいると思うんだけどその裏にああいう真相が隠れているとは思いもつくまい(笑)。なんというか面白いのか面白くないのかが判断しにくい作品。部分部分で考えるとそれぞれではっきり判断できるんだけど、全体でとなると判断しづらい。雰囲気で言うと一作目の方に近いと思う。初めての人は出来れば前二作で合うかどうかを判断してはいかがか。また藤岡ファンにはお馴染みの貴島麗子の名前がちゃんと出てくるのはご愛嬌。