『砂楼に登りし者たち』獅子宮敏彦 ≪評価:3−≫

砂楼に登りし者たち (ミステリ・フロンティア)

時は戦国。数多の武将達が天下統一を目指した時代。その剣呑とした中を牛に跨り、弟子を一人連れて放浪する老医師がいた。彼の名は残夢。名医と呼ばれた彼は不可解な謎を解くことにも秀でていた。そんな彼らが放浪先で出会った事件は合戦中に起こった密室からの人間消失、密室状況下での刺殺、首を斬られても生き返る武将などの四つの事件。そしてこれらの謎と共に解き明かされる歴史上の謎とは?

ミステリフロンティアの新刊。今回はミステリーズ短編賞受賞者の第一作。同時受賞者の加藤実秋は本格ミステリに縛られない作風だったけど、こちらは逆に本格に拘っている。受賞作もそうだったけれど、現在とは違った世界でこそ成り立つトリックを大事にしてるのかな。ただこれは少し諸刃の剣で、下手すると現代と違うところはどこだろうと考えた時に思いつくものがそのままトリックに当てはまってしまう場合があると思う。それから逆に無理に現代と違う世界に押し込んだために、トリック部分が浮いて見える場合もある。この短編集でも第1、4編はそういう印象かな。やはりまだまだ荒削りだと思った。まぁこうした拘りというのは本格ではいい方向に作用することが多いと思うので、この路線は続けて欲しい。