柳広司『ジョーカー・ゲーム』 ≪評価:4≫

ジョーカー・ゲーム
「スタイリッシュなスパイ・ミステリー」。帯に書かれた言葉が見事にこの作品を表していると思う。何より、「魔王」と呼ばれる結城という人物及びその造形が、各短編それぞれにおいてミステリ構造や影響関係を統括していて(「魔都」には出てこないが)ブレがない。やはり帯にあるように「2008年最高最強のエンタテインメント」とまで言えるかは微妙だけれど、良い作品には違いない。手法などがミステリ的に目新しいわけではないけれど、雰囲気なども含めて、この作者らしくサラリと見事にまとめられている。以下、放言。
「見えないもの」であるスパイとは、むしろ完全に「見えるもの」となる。何か偽のものを完全に見せることで見えなくなるのがスパイであり、この方法論は各スパイ個人においても徹底されている(「ロビンソン」での意識レベルの話など)。これを本格ミステリと上手く連結させると、非常に面白いはずで(もちろんどの本格ミステリでも行われていることではあるが、それを徹底させたものは実は少ない)、『はじまりの島』や『新世界』を書いた柳広司であれば、それが可能だとも思う。「ジョーカー・ゲーム」における、「御真影」を巡るトリックは、まさにこの時期において一方では「見えないもの」としてあり、もう一方では写真などで「完全に見えるもの」としてあった天皇制を、上記の問題系と接続させる試みのようにも思える(天城一によって傑作がすでに書かれてはいるが)。しかしいわゆる密室状況での殺人を描いた「XX」ではこの方法論が徹底されていないため、ミステリ的には今一つのように感じた。しかし一方で作品集のひとまずの締め括りとしては、ベストだろう。おそらくは続編が書かれるだろうので、楽しみにしたい。