確かに前半を読み進めるのが退屈だという評価はわかるものの、面白い。諸手を挙げて本格ミステリとは言えないものの、操りを脱臼させていく真相は『絡新婦の理』の反転であり、巽の議論にもリンクしていく。退屈な部分も、ある種の必然あってのもので、読み終えた後では仕方がないと思える。惜しむらくはあと1年早く出ていればと。

さすがに注目株の作家だけあって非常に上手い。伏線の張り方なんかは堂に入ったもの。衝撃作『向日葵の咲かない夏』と似た構図を三人称で行ったら、という試みも良かった。ただ三人称でこれをすると何でもありになっていくのがちょっと。さて今年の本ミスベストに『向日葵』『骸の爪』『シャドウ』というレベルの高い作品三作がどう入ってくるのかが楽しみ。僕は『向日葵』を挙げたいですな。

  • 高田祟史『QED〜ventus〜御霊将門』

これはあまりいただけない。事件が完全に主題でなくなったのはいいけれど、歴史解明部分はもう少し丁寧に追ってほしいところ。

まず名古屋弁がくどく読みにくい。また震災を利用した復讐も、主題的に扱うべきではないような。震災描写も前作に比べて弱い気がするし、全体的に前作の水準を下回っていると思う。

こういうものだと割り切って読めば、なかなかに面白い。お約束と古風なガジェットの乱れ打ち。冗長なのは否めないが、一種のバカミスとして読むのが吉か。この作者はこの路線で続けてくれればいいなと思う。