石持浅海『顔のない敵』 ≪評価:2+≫

顔のない敵 (カッパ・ノベルス)
あぁこの作者に対してはいつも同じことを思ってしまう。それならば感想など書かなくてもとも思うのだけれど。
〈対人地雷〉というテーマの下、そこに纏わる様々な問題を事件を通して浮かび上がらせるという手法は、正直に言って見事なものだと思う。ミステリ的に見ても、テーマと動機や手段が上手く噛み合っていて(つまりは無理にミステリ的型に嵌め込もうとせずに、場合によってはミステリ構造を犠牲にもしていて)、この作者の視野の広さをうかがわせる。しかしこの作者はなぜにこのような結末を好むのか。個人的には、別に動機なんてなんだっていいのだ。動機に納得できないというのは、極論すれば内面が書けていないということで、それは単にそれがあるかのように見せかけるレトリックが不十分くらいにしか捉えていない。で、まぁ探偵の推理だってレトリックなわけで、でもそれをある種の価値観とすり合わせて、しかもそれを相対化せずにほっておくと言うのはどうなんだろう。始末に悪いのは、テーマがテーマなだけにそうした結末に対する反論が、あらかじめ封じられてしまっているように思える点だ。表紙裏の「著者のことば」では、〈対人地雷〉に対して、フィクションでなければできないことがあると言われている。現実と繋がるテーマということを認識した上でのこの解決法はもう少し考えてみる必要があるかも。倫理観の問題が入ってくるので非常に難しいと思うのだけれど。