『乱鴉の島』有栖川有栖 ≪評価:2+≫

乱鴉の島
火村もの、久しぶりの長編。どうも最近の有栖川の作品はピンと来ない。いや、今作は本格ミステリとしてはある程度きちんとしていて、楽しめた部分はある(例えば被害者の死体を移動させた理由なんかは、孤島という舞台設定と結びついているし上手いと思う。ただそれも新しいわけではない)。しかし語り手のロマンティシズムに満ち満ちた感情はいったい何なんだろう。有栖ものでは、まだ語り手の年齢というものがぎりぎりそれを許容してくれたけど、このシリーズでそれをされるとかなりきついものがある。最終部で明かされるある真相を、その共同体の外部に位置する語り手が「純粋」などと言ってしまうのは倫理的にどうかと思う。石持作品がよくその点で批判的に見られるけれど、あれは語り手を含めて主要作中人物がひとつの共同体に入っているから、それを外から見ることになる読者は引っかかりを覚える。今作はその構図を作中で作り出しておいて、ある一定のラインでそれを許容させてしまっている。もう少し何らかの形で担保させておかないとまずいんじゃないだろうか。
面白かったのは、『マレー鉄道の謎』でもそうだったけれど、事件の発端として起こりえないような偶然を持ってきていること。ただそのことが最後まで解決に深く絡んでこなかったのが残念。いやまぁ絡ませようがないかもしれないけど。あと風化しやすいテーマとかネタ使ってるので、さっさと文庫化したほうがいいですよ新潮社さん。