『ストレート・チェイサー』西澤保彦 ≪評価:4≫

ストレート・チェイサー (光文社文庫)

リンズィはある夜、バーで知り合った素性の知れぬ二人の女と「トリプル交換殺人」の約束をしてしまう。単なるジョークと考えていた彼女だが、翌日に自分が指名した上司の家で死体が発見され・・・

これは良かった。従来の本格ミステリでは、こうした交換殺人というファクターはロジックの積み重ねが難しく、また容疑者の絞込みも難しいので中々成立させにくい*1。しかし西澤保彦はタックシリーズに代表されるように妄想的推理とでも言うべきものを用いる作家なので、あまりそうした制約はないと言える。これは批判でも何でもなく、本格ミステリの推理が持っている性質の一部分であって、西澤やバークリーはそれを顕在化させているとも言える。さらにここから西澤は、探偵の推理という権力性にも自覚的だろうと思うけれどそれはまた違う話。
あぁ脱線。話の展開に触れたくないので詳しくは言えないけど、今作ではその妄想的推理に加えて、ある要素を効果的に使っている。最終行に至って、初めていくつかの場面で感じた違和感が解消されるという、通常とは少し異なった「最後の一撃」ものとして評価したい。惜しむらくは新書、文庫版ともに絶版なことかな。

*1:例えば最近、交換殺人を用いた東川篤哉の作品は街から離れた場所に関係者を集めるという形で容疑者の範囲を狭めると同時に、あるトリックによってその問題を回避している