『グーテンベルクの黄昏』後藤均 ≪評価:3−≫

グーテンベルクの黄昏 (創元クライム・クラブ)

大学教授の富井はひょんなことから(前作参照)フランスで活躍していた画家、星野康夫の残した手記を手に入れ、彼の娘エリカと共に星野が残した謎に挑むことになる。彼が残した手記には彼が戦時中に体験した、英仏独日にまたがる一連の事件が記されていた。イギリスで目撃された日本にいるはずの海軍士官。厳重に閉ざされた防空壕で発見された死体。そして星野がヒントとして残した10の言葉。星野が解けなかった謎とは。そして富井たちはその謎を解くことが出来るのか。

というわけで。前作『写本室の迷宮』以来、3年振りの受賞後第一作。粗筋を見てもらってもわかるように前作の続編といってもいい作品になっている。最初に言っておくならば本格ミステリとしての要素はあるけれど良い出来とはとても言えない。不可能犯罪は出て来るけれど、その解決は腰砕けだし作中に組み込む必然性もない。よって歴史ミステリとして評価する、という方向性になるんだけど・・・。
まず星野の手記部分はかなりご都合主義的展開はあるが面白い。戦時下のヨーロッパという状況が読者を飽きさせない展開になっていて、さらに全体を貫く何かがあるということがほのめかされているのでリーダビリティがある。しかしその外側の富井パートでの謎解きはなんとまぁ味気ないことか。歴史ミステリの醍醐味と言えば例えば『成吉思汗の秘密』などのように一つずつ推理と検証を重ねていった末にある事実が見えてくるという形が最善だと思うんだけど、この作品では一つの点に気付いて、そこを論証していくだけに終わっている。この部分をもっと膨らませてくれればそこそこの作品になったのでは。付け加えるなら、ラストで現実の事件に繋げることはしない方が良かったと思う。もしかするとこの着想が先にあったために窮屈な構造になったのかもしれないけど。これでこの作者の全二作品を読んだわけだけど、筆力はそれなりにあると思う。ただ作品構造や本格ミステリ部分に関してはもう少し上手く書いてほしいなと感じた。