『写楽・孝』北森鴻 ≪評価:3+≫

写楽・考―蓮丈那智フィールドファイル〈3〉 (新潮エンターテインメント倶楽部)

学界においても異端の民俗学者、蓮丈那智。彼女とその助手、内藤三國の周囲ではなぜか現実の事件が顔を覗かせるが、那智は自らの仮説とともに事件をも解決してしまう。彼らの勤める大学の都市伝説の材料とされた三國。その後、急に那智からある旧家に伝わる「御守り様」と呼ばれる人形の調査を命じられる。しかし、一度無くなった人形は顔を潰されて見つかり、さらにそれをなぞるかのような状態で死体となった当主が発見される――「憑代忌」、他三編。

蓮丈那智シリーズ第3弾。帯に民俗学ミステリと謳われているように、このシリーズは基本的に民俗学に関するある仮説ないし謎と現実の事件の謎とが二重写しになり、また解決されるという構造を持っている。今作でもそれは踏襲されているけれど、これまでに比べそれぞれの謎や結び付け方が若干スケールダウンしてる印象。とはいえ、最初の二編はミステリ的には常套の手段を上手く民俗学と絡めて提示しているし後ろ二編は結びつきが弱いかなと思うものの、民俗学のアイデアとして面白い。「棄神祭」は横溝へのオマージュとしても読めるね。そして表題作は操り問題の短編でもある。ここでは単純に真犯人のミスをミスとして認め、さらに自白を用いることで真相を提示してるけど。ただ表題作は題でネタを割るんじゃなくて当初のまま「黒絵師」の方がよかったんじゃないかな。ひとまず表題作で”仮想民俗学”という民俗学の視野を広げるものが出されているので以後のシリーズはもう少し書きやすくなるんじゃないかな。その際にクオリティがどうなっていくかという点も注目のしどころ。