『ポストコロニアリズム』本橋哲也

ポストコロニアリズム (岩波新書)
ファノン、サイードスピヴァクの三人を軸にポストコロニアリズムを解説した入門書。
これはまず上記の三人の理解を助けるためには良い解説書になってると思う。サイードはまぁいいとして、あまり顧みられない印象のファノンとなかなか手強い(と僕は思う)スピヴァクを取り扱っていて、しかもわかりやすい。この部分(第3〜5章)は読む価値があると思う。ただ一方で第六章”「日本」にとってポストコロニアリズムとは何か”。この章は正直、あまりいいものではないと思う。例えばアイヌについてのまとめの部分で筆者はこう書いている。

アイヌをめぐる歴史過程を国家の側から描くのではなく、アイヌ自身が歴史の主人公として立ち現れること。

もちろんなんとなーく言わんとしていることはわからないでもない。というかこうした身振りこそがポスコロだと思うけれど、その内容が見えてこない。ポスコロってこういうものですよと解説してきて、じゃあ日本の場合を考えてみましょう、その時どうすればいいのかというと、ポスコロをしたらいいんですよ。という同義反復じゃないのかな、これ。それに「アイヌ自身が歴史の主人公」になるのは、スピヴァクが批判する「知識人」が彼らを代弁してしまう、という場合にも起こりうることだろう。その陥穽についても言及はしておくべきなんじゃないかなぁ。ま、良書だけどとりあえず終章は自分の中でいろいろ確認しながら読んでいくべきだと思う。