『月読』太田忠司

月読(つくよみ) (本格ミステリ・マスターズ)

死に行く人が残す物、月導。そこから死者の最期の言葉を聞き取る者、月読。結浜市で従妹を殺した犯人を追う刑事、河井寿充は月読である朔夜一心に出会った。河井と、この市で月読として自らを育てた師を探す一心はお互いの事件に協力することになる。一方、高校生の克巳は自らの秘密を知って今後どうするか悩んでいた。そんな中、親しくなる同級生の香坂ケイ子。そして彼女の家で事件が起こるのを境に彼らの運命は交錯し始めた。

まず断っておくと僕は太田忠司の著作を数冊しか読んでいないので、読み方が適当でないのかもしれない。現実世界に、死者が月導と呼ばれるモノを残し、月読という能力者はそこから死者が最期に考えていたことを読み取れるというSF設定を持ち込んだミステリ。まずこの設定自体は魅力的だと思う。ただ、この設定を十分に生かし切っているかというと少し疑問。さらに本格ミステリとしても・・・。
きちんと事件が起き、何かしらかの謎は存在する。でもそれが読者の興味を持続させるほどの吸引力のあるものとは到底、言い難い。もちろん僕が考える本格ミステリに、謎の吸引力が不可欠だということではなく、例えば解決に瞠目させられる発想、ロジック等があれば、謎の大小なんかは関係ないと考えている。けれど、解決部分にそこまでの感心はなかった。細かい点に関して言うなら、なぜ犯行現場を燃やそうとしたか、などは上手いと思う。この部分は、物語のいくつかの筋をまとめてしまう点の一つになっていて、そのまとめ方には少し感心した。でも長編を支えるものとしては弱く、それは他の部分に関しても同じで全体的にいくつかのトリック等を組み合わせて一つの物語を完成させたという印象を受けてしまう。写真に関する論理展開も普通だし、作者が狙ったであろう終盤の一つのトリックにしてもあまりにも伏線がなく、さほど効果的ではないはず。
物語自体は一つの青春小説としてそれなりに読めないこともないけれど、本格ミステリとしてはこれはかなりいただけない作品だったかな。なぜこんなに批判的かというと、これが本格ミステリ・マスターズの作品だからなんですね。あのレーベルは作者にとってこれが本格ミステリという作品を集めるものでしたよね? 中でも割と太田忠司には期待してたんですが、これが本格ミステリといわれると、ちょっとなぁと。