『「ギロチン城」殺人事件』北山猛邦

『ギロチン城』殺人事件 (講談社ノベルス)

自らを探偵と称する幕辺ナコが拾ってきた人形は「Help」という文字を書くカラクリ人形だった。幕辺と頼科は謎を解くために人形があった『ギロチン城』――過去に城主の密室斬首事件があったという曰くつきの城へ。そこで彼らを待っていたのは、城の外に興味を持たない者と城の外を知らない者、そして静脈認証などの様々なセキュリティ装置と、それらによって守られた密室状況での斬首事件だった。

物理トリックの名手、北山猛邦の〈城〉シリーズ第4弾(紹介文より)て、いつのまに名手になったんだ北山よ。あとこれって〈城〉シリーズだったのね。まぁそれはともかく。前作より一年半振りの新作。まずこのトリックはなかなかに面白い。
【注意】反転部分で今作と前作『「アリス・ミラー城」殺人事件』のトリックに言及しています。
未読の方はご注意を!
床(廊下)を動かすことで立っているものの位置関係を惑わせるというトリックは考え方を広げれば似たものはあるけれど、それをスクウェアという儀式の中に放り込んで、何とも奇妙な形で成立させてしまう辺りが北山らしいと思う。気付くんじゃね?とか突っ込みどころはいろいろあるけれど、それをあえて無視してこうした北山らしさを出そうとするところは僕はかなり好きです。でもわかりにくいからって図を入れてしまうと結構ピンと来る人が多いんじゃないだろか。
で。もう一つのトリックですね。つまりこの作品は前作と裏表のような関係になっているわけです。前作は二人の人物を一人に見せかけるというトリックが使われていたのに対し今作では一人の人物を二人に見せかけるトリックが仕掛けられていたのですね。人間も人形だ、パーツだという伏線が張られてはいるけど少し書き急ぎすぎた感がある。もう少しこの城内の話を組み立てて、丁寧にこの思考を通用させる(あり得ると思わせる)内部世界を構築できれば、非常にいい作品となったのでは。おそらくあまり話を長引かせると「藍=悠」であることを幕辺たちが知らないことが不自然になってくるので、一気に事件を起こしてしまったんだろう。まぁこれは諸刃の剣でどうするかは難しいところだけれど。ただそれを差し引いても残念な点が。前作が成功したのはアリスという人物を叙述で隠し通したから、というより登場人物がアリスを見た、アリスが犯人だと言っても、読者はそれを実際の人物ではなく架空のアリスだと思い込むミスディレクションが秀逸だったからだと思うんだけど、この作品ではそうした点に感心する部分がなくて、単純な叙述で騙しているところが勿体無いなと。
今作は北山をずっと読んできている人にはある程度、受け入れられるかもしれない。でもこれが北山初体験、て人には薦めにくいかな。前作から読んだほうがいいかと。