『愚か者死すべし』原寮

大晦日、新宿警察署の地下駐車場で発生した銃撃事件。発射された二発の内、一発はある事件の容疑者に、もう一発は横の刑事に命中した。偶然その場にいた沢崎が調査を開始すると、事件は予想外の方向へ…。

88年『そして夜は蘇る』でデビューし、翌年、次作『私が殺した少女』で直木賞受賞。95年の長編第三作『さらば長き眠り』の後、9年間沈黙していた著者の最新作。長年待った甲斐がある一作、と言えると思う。
9年間が過ぎ去ったとはいえ、沢崎の佇まいは全く変化しておらず、古びてもいない。ただ作風というか作品構造には少し変化が見られる。これまでの長編三作は事件を貫く大きな筋が一本あり、その筋に複雑に人間関係や思惑が絡み合うことで事件が複雑化していたけれど、今作ではいくつかの事件を上手く絡み合わせることでそれが為されている。この手法は一歩間違えるとご都合主義でグダグダになってしまうけれどそれぞれの絡ませ方が非常によく考えられていて、上手くバランスが取れていると思う。後書きで著者は質の良い作品を短時間で書く方法を探していたと言っているが、もしかするとこうした手法の変化もそうした工夫の一つなのかもしれない。いずれにせよ過去の長編に見劣りしない出来に一安心。次が楽しみです。
・・・いやね、正直少し諦めてました。綾辻とか法月も作品出してなかったけれど短編とかエッセイとか何らかの形で露出はしていたので、安心はしてました。でも原寮はほとんどそういうのなかったから。今思うと2chで流れた新作刊行のネタはほんとだったのね。でもハードカバーでこの装丁はちょっとなぁ。文庫だとこれでも合ってるんだけど。