『BG、あるいは死せるカイニス』石持浅海

BG、あるいは死せるカイニス (ミステリ・フロンティア)

ある朝、わたしの姉が学校で絞殺されていた。しかも姉にはレイプをされたような形跡が。学校一優秀で男性化することは間違いないと思われ、慕われていたあの人が何故?姉の葬式に現れた謎の白人女性。姉がふと口にした”BG”という言葉。姉の死の裏には一体何が隠されているんだろう?

アイルランドの薔薇』『月の扉』と話題作を発表してきた著者がミステリフロンティアから放つ第四作。
人類はまず全員女性として生まれ、その後、子を産んだ優秀な女性が男性化し、種を維持するというSF的設定の下で本格ミステリを展開していく点は、これまでの作風とは大きく異なっています。とはいえそうした設定以外はほぼ現実と変わらないので特に大きな違和感は感じません。さらにそのことが様々なミスディレクションから上手く読者の目を背ける役割を果たしてもいます。例えばこの世界では男が女をレイプすることはまずありえない、ということなどには軽く盲点をつかれました(これは物語の早い段階で出てくることなのでネタバレにはならないでしょう)。
しかしそういった細かい部分に上手い部分は見られるものの、SF的設定を導入した本格ミステリの醍醐味の一つでもある、そうした設定の盲点を突くことで事件の根幹が明らかになるというカタルシスは残念ながらありません。また著者の特徴でもある無理のないロジックにも、これまでの作品に比べると切れ味が無くなっています。ロジックの出発点の多くが物証ではなく、登場人物の言葉尻を捉えたものであることやいろいろなデータを小出しにしていることは本格ミステリとしてはあまりいただけません。
最後に気になることはやはり物語の結末でしょうか。なぜこの著者はこうした変なことで物語を締め括ろうとするのでしょうか。これまでの作品とは少し異なってはいますが、それらがあるだけに裏を読んでみたくなるというものです。非常に期待していたため、ハードルが高くなったということもあるでしょうがSF的設定の導入がこの著者にとっては裏目に出てしまったのかな、という思いです。決して面白くないわけではありませんが、個人的には少し残念な作品でした。