『十八の夏』光原百合  

十八の夏
第55回日本推理作家小説協会賞(短編部門)受賞作である表題作が収録された短編集。「花」をモチーフにしたシリーズとのことだが、連城三紀彦の「花葬」シリーズを意識したのかなぁ。表題作からは少しそんな印象を受ける。

  • 「十八の夏」

序盤の「日常の謎」らしい少年と女性の出会いと交遊から一転、後半ではそうした図式が反転し真実が顔を出す。その反転の構図はどこか連城の作風を思い起こさせる。惜しむらくは彼ほどの衝撃がないことか。話としてはきれいにまとまっているが、逆にその部分が残念。

  • 「ささやかな奇跡」

単純にいい話。重要なところでミステリ的な部分はあるが、扱いが小さい上にあまりにも真相がわかりやすすぎる。「日常の謎」派らしいといえばそうかもしれない。

  • 「兄貴の純情」

これまたいい話。全く関係ないかもしれないが、兄貴の描写からは倉知淳の猫丸先輩を思いだした。正直、あまりコメントのしようがない話かな。

  • 「イノセント・デイズ」

これまでの光原読者に衝撃を与えた作品。言ってみれば北村薫の『盤上の敵』と同じ位置付けが出来る。また4編の中で最もミステリ的な作品でもある。過去に教え子に振りかかった事件。それが時を経てその裏に隠された真実を明らかにする。悪意云々についてはもうあまり述べないが、ミステリとしても良く出来た作品だと思う。数は少ないながらばらまかれた伏線が最後に無駄なくまとまっていく点は見事だし、さらにその伏線に人の思いをも写し出している点も見事。おそらく今後も彼女の代表作となる一編だと思う。
全体として見てもいい短編集だろう。欲を言えば前後の作品くらいのレベルが揃えばほんとに傑作となっていたのになぁという印象。でも最初と最後の二つだけでも読んで損はない作品です。