犬村小六『とある飛空士への追憶』 ≪評価:4≫

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫)
というわけで、さらさら読めるものを適当に物色して。いくつかのサイトで好評価でよさそうだったので。
うむ、非常に適度に上手くまとめられたボーイミーツガールもの。戦時中に、皇子の婚約者(すんごい美人)=次期皇妃を首都に避難させるために彼女とともに敵国制空権下の海上を単独翔破しろと命令されたある飛空士の話。これだけでもうある程度の話の筋はわかるだろうし、実際そこから全く外れない。でもこの設定自体が話をコンパクトにまとめつつも上手いこと仕上げていることがわかる。つまりは飛行機という(あるいは空という舞台)設定の勝利かも(それを設定して、かつそれに基づいてきっちりと仕上げる作家の力量というのも当然ある。設定はもちろんあざとくもあるけれど、それでも嫌味なく物語を紡ぐってのはなかなか簡単ではないはず)。こうすると他の人物が登場せずに完全に二人で進めていけて、余分なことを書く必要なくなるし(だからこそ終盤の一騎打ちが映えてくる)、飛空士やヒロイン(の境遇やらお互いの感情やら)と空の対比がきれいに出せるし(最後の空中ダンスと黄金の霧はそれが見事に決まってる)。それから何よりも話の落としどころが非常によろしい。安易に締めずに、しかしこのニヤリとしながら物語の余韻をかみ締めさせる最後の趣向。素晴らしい。
ところでこの飛行士って絶対に坂井三郎がモデルだよね? 空戦での敵弾の回避方法(首尾線があった瞬間に横滑りさせる)だけじゃなく、途中でこめかみに怪我をするとことか、その後、複数の敵機にぐるぐる順番に攻撃しかけられて、でもその度に上記の回避方法でかわし続けるとことか。真電は零戦かなぁ。7.7mmと20mmの装備って零戦が最初じゃなかったっけ。と子供の頃に零戦が大好きだった人は思いました。だから空戦の描写が上手いのか、それとも別の本を参考にしてるのかは気になった。