有栖川有栖『女王国の城』 ≪評価:4≫

女王国の城 (創元クライム・クラブ)
江神シリーズ新作ついに刊行。というのはどこのブログでも言われてるのでさておき。
やはりここまで刊行時期が開いてしまうと、どうしても不安になるわけですが、ひとまずはそれが杞憂に終わる作品だったと思う。「新本格」における有栖川とは、やはり江神シリーズ初期三作で見せた、見事なロジックの組み立てであり、正統派の本格の書き手としてあった。それは今作でも(いかんなくとまで言えるかは置いておいて)しっかりと発揮されている。過去の密室事件を意味ありげに語っておいて、解決において、見事なロジックで現代と過去を繋いでみせる辺りは素晴らしい。江神シリーズのロジック、というか探偵役の推理の描き方に、ある一点から論理が流れるように進んでいくという特徴があって、その一点がシンプルであるがためにそこには単に論理を追う快感だけでなく、反転の快感も加わることになるけれど、そうした点はこの作品でもきちんと受け継がれていて、非常に満足。
不満点としては、少し実際に事件が起こるまでが長くて読了してもそこまでの長さが必要だったかどうかが微妙なところ。UFO薀蓄はもう少し抑えてもよかったような。それから結末で明かされる新興宗教側のある理由が、この作品において重要であり一つの前提になっているというのはわかるけれど、もう少し殺人事件と上手く絡めてくれると、というところ。いやしかし前作から15年経つにもかかわらず、作品内に流れるあの雰囲気がほぼ変わっていないのには驚き。火村シリーズでもたまに有栖川流のロマンティシズムが顔を覗かせるけど、やはりそれはこちらのシリーズにより合ったものなんだろうと思う。以下は若干、真相を予見させるような気もするので。
ところで前作『双頭の悪魔』との類似の指摘もあるけれど、おそらくクローズドサークルや仲間を迎えに行くなどの設定以上に、ミステリの構造的に両者は類似している。ネタバレにならないように曖昧に書くけれど、前作ではサークルの内外がいつ断絶されたのか(行き来不可能になったのか)が、推理の大きなポイントになっていた(サークル外にあるはずのないものがあるという謎が、最終的な謎を解く手掛かりの一つだった、はず)。今作ではその時間差が大きく拡げられて使用されている。個人的に一番感心したのはここで、クローズドサークル内での事件を解くための大きな手掛かりが、過去という、物理的ではなく時間的な外部に置かれているという点。こうした構造の系譜というのを追ってみると面白いことが見えるんじゃなかろうか。