『リロ・グラ・シスタ』詠坂雄二 ≪評価:3+≫

リロ・グラ・シスタ―the little glass sister (カッパ・ノベルス)
カッパワン久々の刊行。綾辻行人佳多山大地による推薦付きという中々の期待されっぷり。
高校内部での生徒殺人事件とそれを捜査する”名探偵”による一人称、と言うと、やはりここは『密閉教室』を思い出さざるを得ないんだけど、いかにもな青春小説だったあれとは違って、というのはつまりあのようなあからさまな諦念や挫折がほとんどないということだけれど、とにかく綾辻の推薦文にもあるように、ハードボイルドな文体やら何やらが事件の構造から逆算して作られている、ある意味で非常に「新本格」らしい作品と言えるかもしれない(その意味で佳多山が「新本格」の名を出す点には同意するが、彼の言うようにこれが「青春小説」だとはあまり思えない)。以下、真相モロに書いてます。
おそらく普通に考えて個々のネタに新味は全くないけれど、組み合わせと目眩ましが上手い。一人称の語り手が犯人、語り手の性別誤認叙述トリック、大枠ではこの二つのトリックが組み合わされているわけだけど、そこに突き落とした死体をなぜ屋上に引き上げたのかというホワイダニットの理由も不可分に結びつかせ、作中にも多くのミスリーディングが施されている(例えば作中の援交少女はやたらと主人公にキスをするわけだけれど、ある箇所でさらっと女性とも寝ることが示される。さらにこの部分は、ラストに至ってみればほとんど添え物のようなトリックが明らかになる部分でもあり、というか事件全体の構造を隠すと同時に物語を引っ張るために用いられているので端から捨て駒ではあるんだけど、とにかくそのことでも主人公が女かもという疑惑は隠される。上手い)。この辺りのバランス感覚は今後に期待できる、けれども、この路線ではすぐにジリ貧になるだろうので、次回作がどのようになるかに注目か。