北國浩二『夏の魔法』 ≪評価:4−≫

夏の魔法 (ミステリ・フロンティア)
ふむ、これはまたまた予想外の作品だった。
22歳という年齢にもかかわらず、「ケルトナー症候群」*1という早老症を患い、余命残りわずかという女性。彼女は最後に、初恋の男性との思い出の島で過ごそうとする。しかしその島には、青年となった彼がいて…。
展開をバラし気味なので。
主人公である彼女に焦点化された三人称の語りは、過去の回想部分とともに、彼女の心情を事細かに紡いでいき、端的に言って非常に「上手い」。けれど、この作品の眼目はそこではない。上述のような粗筋を書くと、ありがちな物語、それも純愛(!)の小説に思える。作者はそうした予想を見事に裏切るが、それは単に「純愛ではない」という否定によってなのではなく、純愛を突き詰めた末にそれがドラスティックに反転するという弁証法的契機によって駆動する。この事実を提示してみせた点が上手い。
とはいえ、それもまた純愛であるという(ある意味、当然の)視点を有する読者にとってみれば、予定調和とも言える物語展開になるだろう。しかし作者はそうした立場をも裏切ってみせる。主人公が自らの気持ちを突き詰め、それに基づいてある死の機械を駆動させた直後に、彼女はこの思い出の島という舞台が虚構であったことを知らされる。その「虚構」という物語内の事実は、しかし同時に『夏の魔法』という虚構を読んでいる読者にも飛び火し、つまりは改めて純愛小説というジャンルを解体しているのだ。
平山瑞穂は『忘れないと誓った僕がいた』において、テクストという虚構を直接の事実として読者に再認識させることで、純愛小説というものを解体してみせた。アプローチの方法と感触は違えど、北國浩二のこのテクストも同様の地平に位置している。
勢いに任せて書いたものの、作中での寓話の位置づけや結末の読み取りをしていない。今のところキーワードとなりそうなのは、老い、トリック、石持浅海との関連、といったところかな。

*1:架空の病気