『びっくり館の殺人』綾辻行人 ≪評価:3≫

びっくり館の殺人 (ミステリーランド)
ミニコメ。
むぅ、館シリーズで90年代本格に入り込んでいった者としては、前作から短いスパンでシリーズ作品が出たのはうれしいけど、これはちょっと・・・。というかネタとしては悪くないんだけど見せ方が悪いと思う。以下、真相に言及。
とりあえず真相としては、人形とされていたのが実は人形に扮せられたトシオだったという叙述トリック。でもこれを書くのに、そのことを最初から認識している人物を語り手にしてしまうと、そしてそれを認識しつつフェアに書こうとするとどうしたって曖昧な書き方にならざるを得ない。これまでの館シリーズでは基本的に叙述トリックを使う必然性というものにそれなりに気が配られているんだけど、この作品では語り手が事実を隠蔽する必然性が弱い。語りの時間軸は現在にあるのに、主人公が何のために事実を隠蔽した回想を行ったのかがよくわからない。作者の恣意性と言えばそれまでかもしれないけど、それにしたって今までのシリーズ作品と同様に作者と語り手の恣意性を峻別してほしかった。例えば主人公が誰か別の作中人物に語るという形式なら、その辺りはクリアできたと思うんだけど。
おそらく子供向けということでさらりと書こうとしたけれど、一方で作者の考えるミステリやホラーの面白さを詰め込もうとし、さらに館シリーズということでシリーズ読者も読める作品にしようとした辺りでバランスが取れなくなったんだと思う。枚数制限もあるだろうし、これなら館シリーズでも割り切ってクリアな叙述トリックにしたほうがよかったんじゃないかな。ま、竹本健治中井英夫)的なものとか有名な宇山エピソードを盛り込みたかったというのもわかるんだけどね。もしかしたら深読みできるかもしれないけど、ひとまずこんなとこで。