『図書館戦争』有川浩 ≪評価:2≫

図書館戦争

公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律=「メディア良化法」が施行され、検閲が公に許可された日本。そんな状況下で「図書館の自由」を掲げる図書館のみがそれに対抗可能だった。良化委員会と図書館の対立は激化していき、図書館側も武装した館員を配備するようになる。そんな中、過去に出会った図書館員に憧れ、その道に進んだ笠原郁だが・・・

有川浩四作目。むぅこれは正直、評価できない気がする。さすが有川というか良質の娯楽小説にはなっているんだけど、前二作のように怪獣物ではないので背景テーマが溶け込んでない。
というか作者が訴えたいのは「図書館の自由」ということなんだけど、ものすごく半端になってると思う。ベタならベタにもう少し書きようがあるのでは。例えば主人公は本好きという設定らしいのだけど、そのことに筆が割かれるわけでもなく、結局のところその設定は、良化委員会から助け出してくれた図書館員に憧れるという、恋愛を駆動させるための装置の前提としてしか機能していない。元々、有川の小説において描かれる何らかの状況は恋愛の装置である、ということはあるけれど今作ではその悪い部分が前に出てしまったという感じか。
つまるところ、この戦いは何の戦いなんだろうか。いやもちろん検閲制度とそれに対抗するものの戦いではあるんだけれど、その両者への振り分けの違いは何に基づいているのか、それが全く見えてこない。お互いと自らの側に対するある種の相対化の視線が全くなく、それぞれに(というか図書館側しか描かれないけれど)盲目的に従っているようで、それはもはや単なるコマにしか見えない。さらにそれが何のためのコマかと言うと、青臭い恋愛(らしきもの)を育てていくためのコマ。別に青臭い恋愛ものを批判する気はないしコマという機能を否定するつもりはないけれど、これはちょっと無自覚ではないかと思う。彼女の作風にとって、それらが透けて見えるのは致命的なんじゃないだろうか。さらに(おそらく)検閲批判と「図書館の自由」の主張が意味を為さなくなっているのでは。