二階堂氏のHPで言われていることだけど、『このミス』『本ミス』ともに東野圭吾が一位の模様。予想通り。
ところで二階堂氏はあの作品は本格ミステリではない、と異論を唱えているみたい。もしかすると乙一の時みたいにネット上で意見が分かれそうな気もするけど、ここで彼の主張に異議を唱えるだけでは議論としての生産性はあまりないんだろうなと思う。何故ならここには90年代本格ミステリというジャンルの一つの問題系が含まれてるからで、つまりは叙述トリックの問題になるんだけど、ここではある程度、歴史を追って見ていく必要がある。
千街晶之が「伝統の二重帝国」*1で「〈黄金期本格〉系」、「〈クライム・クラブ〉系」と大まかに二つに分けたように、この時期の本格というものには(様々な差異を捨象すれば)二つの流れがある。基本的に叙述トリックというのはバリンジャーに代表されるように後者に位置付けられることが多いけれど、実際は前者に使うことももちろん可能なわけ。なのでここで考えるべきは、なぜ以前は別物としてみなされていた後者の系譜が、現在では基本的に本格の枠内に取り込まれたのかという点を問うと同時に、前者で使われるものと後者で使われるものに差異があるのかということを分析していかないといけないんだろうなぁ。その意味で、実作者の一人としてその差異に言及したものとして、貴重なサンプルになるんじゃないだろうか。まぁこの場合、作品分析の一方で受容側の意識や状況をも考えないといけないので骨の折れる仕事になるんだろう・・・。

*1:ユリイカ」〈特集 ミステリ・ルネッサンス〉所収