『写本室の迷宮』後藤均 ≪評価:2≫

写本室(スクリプトリウム)の迷宮 (創元推理文庫)

大学教授の富井は、チューリッヒの画廊に飾られていた一枚の絵に惹かれる。フランスで活躍していた星野康夫作のその絵はカタリ派最後の戦いを描いたもので、興味を示した富井に画廊の主人は星野の手記を手渡す。そこには星野が戦争直後に体験したある事件の顛末が書かれていた――吹雪の中の古城。そこで開かれる、作品「イギリス靴の謎」を巡る推理合戦。そして現実に起こる殺人――。この手記を通じて星野は何を伝えたいのか?

第12回鮎川哲也賞受賞作。ま、すでに言われてることの繰り返しになるだろけど。
作中作中作という多重構造。「イギリス靴の謎」で提示される不可能犯罪。その外側を取り囲む怪しげな仕掛けに満ちた古城。中世カタリ派という異端キリスト教を巡る謎。ミステリの謎としては申し分のない形なんだけど、その解決が上手くいかないとなぁ・・・という感想。やはりここまで恣意的な解決では読者は納得いかないだろう。また文庫版解説でも言われているけど、多重構造の一番外側の必然性がほとんどないのは致命的。さらに言わせてもらえばカタリ派という魅力的な素材を用いているのに、全く上手く活かせていない。様々な衒学趣味にしても読者に噛み砕いて説明しようという気がないように感じた。次作に繋がる終わり方(というか結局、エピローグみたいなもんだが)をしているだけに次作がまずかったらもうだめかな。つってもいつ読むかは知らない。