『犬はどこだ』米澤穂信 ≪評価:4≫

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

皮膚アレルギーのため、銀行を辞めた紺屋が始めたのは私立探偵だった。犬探し専門を希望していた紺屋だったが営業開始早々、舞い込んできた依頼は失踪人探しと古文書の由来調査。探偵志望の高校の後輩、半田に古文書調査をまかせ、紺屋は失踪人の行方を追う。しかし彼らの知らないところで二つは交わっており・・・。

ハードカバーを続けさまに刊行し、そろそろ軽くブレイクするかという米澤穂信の新刊はなんとハードボイルド。これまで青春小説の書き手として知られてきた作者だが、この作品にも通底するものはある。物語の主要人物が基本的に(定義は曖昧だけど)大人になり切れない人物として描かれているから。物語の前半は若干、地味な展開になっていて、作者独特の読みやすくて少しとぼけた味わいで読ませる感じ。しかし物語が動き出す後半になると展開が一気に早くなり、非常にひきこまれる。何より真相に至ったときの構図の反転具合は本格ミステリ界から評価の高いロスマクを彷彿とさせる、というのは言い過ぎか。しかし例えばロスマクの『さむけ』がほとんどその反転具合に効果を絞ったために本格ミステリ的な推理の余地を消してしまったのに対し、この作品ではその反転と本格ミステリ的推理のバランスが非常に上手くとれており、その点で佳作だと思う。反転と言えば、読了後には題名の意味も反転してしまう点も見逃せない。犬探し希望の私立探偵というあらすじから連想されるイメージとは180度異なる意味合いが浮かび上がってくる。ハードボイルドと本格ミステリを上手く併せ、自身の作風も広げたという点で作者のターニングポイントになるのでは。