『臨場』横山秀夫

臨場

警察では事件現場で初動捜査に当たることを臨場と言う。L県警には鑑識調査官として名高い倉石義男がいた。鑑識としての確かな腕と、他の捜査官は看過するようなことから事件の真相を見抜く鋭さから、ついたあだ名は”終身検視官”。――記者が夜廻りで張り込んでいた警部の官舎で警部夫人が殺害された。張り込んでいる間に不審な動きはなかった。ではわずか十数分、張り込みから離れていた隙の凶行か。しかし、念のためドアノブにのせておいた小石はそのままだった・・・『眼前の密室』を含む八篇から成る短編集。

早いペースで作品を出している横山秀夫の警察モノとしては現時点で最新の短編集。この作品では今までとは少し違う方向からの描かれ方がされてると思う。これまでは例えば”終身検視官”のような(能力的に)特殊な人間の近くにいる人物を主人公に据え、事件とともにその人物の葛藤を描くという形がほとんどだった。今作でもそうした人物の傍にいる視点人物という辺りはあまり変化していないけれど特殊な人物があまり表に出てこないような描き方がされている。そのせいか、これまでの作品から強烈に(笑)漂っていた男臭さが少し薄くなっているような気がした。
ミステリ的にベストは冒頭の『赤い名刺』かな。シンプルでオーソドックスではあるけれどそのシンプルさが上手い一遍。『眼前の密室』もいいけれど、状況が限定されているので、そこから逆算して犯人や犯行方法がわかってしまうのでは。あまりにも状況を縛ってしまうと解答の道筋が狭まってしまうということがよくわかる。あとは『鉢植えの女』も上手いなと思うけど、二つの事件がバラバラなことがちょっと残念。後半の短編は少しミステリより情に重きを置いた感じになっているのかな。
さすが、横山秀夫と言うべきか水準以上の作品になってます。というかこれが彼のアベレージになっているのがすごい。でもこれが今年度の本格ミステリ大賞候補ってのはどうなんだろう。これだったら『第三の時効』の方がずっと本格度が高かったと思う。