『キリサキ』田代裕彦

キリサキ (富士見ミステリー文庫)

死んでしまった〈俺〉。しかし死後の世界で会った自称〈案内人〉のナヴィによると〈俺〉にはまだ寿命が残っているらしい。そのため生き返ることになった〈俺〉だが、いざ戻ってみると女子高生の体に入っていた。どうやら〈俺〉の体にはすでに違う誰かが入っていたためらしい。〈俺〉は〈俺〉の体に入っているのが誰かを調べようとする。そんな中、連続女子高生殺人犯、通称〈キリサキ〉によってクラスメイトが殺害され、〈俺〉は驚愕する。何故って〈キリサキ〉は――。

『平井骸惚此中ニ有リ』で第三回富士見ヤングミステリー大賞を受賞した作者の新作。うん、これはなかなか。読んでる間はどうにも『ハサミ男』がちらついてしかたがなかったです。多重人格に類似した(?)設定、【以下、ネタバレにつき反転】
シリアルキラーである主人公が犯人を探すという展開など。で、まぁ解決を含めても基本的な構造はやはり『ハサミ男』っぽいとは思う。何より、刑事の一部が主人公を犯人と疑っているかのように叙述しておいて実は主人公ではない人物を疑っていたという仕掛けはまさに同じ構造じゃないかな。
でも一方で単なる模倣に終わっておらずオリジナリティをきちんと出していて上手いなと。似てる部分を取り出すと上記のようにはなるんだけど、実際の謎解き部分はなんというか想像の斜め上を行ってた。かなりぶっ飛んだ解決なんだけど、それがあまり気にならないのはきちんと個々の事に対して伏線が張られているからだし、つまるところそれが出来るというのはこの複雑な展開を完全に自らの頭の中で咀嚼しきっているからだろう。少しご都合主義なところもあるけど
全体的に上手にまとめてるなという感じ。最後のオチも歪んでて好みです。これが無理矢理入れたLOVEですか(笑)しかもその伏線の張り方が小説の流れの中で特に不自然には感じられないところも好印象。『平井骸惚〜』の2、3作目は未読なので何とも言えないけれど、この作者、かなりミステリを書くのが上手いかもしれない。これはお薦めですよ。