『殺人現場はその手の中に』柄刀一

殺人現場はその手の中に―本格痛快ミステリー (ノン・ノベル―天才・竜之介がゆく!)

祖父の遺産を使って、”学習プレイランド”――子供達がゲーム感覚で物理などの基本を学べる施設の建設を計画している天地龍之介。彼が計画のために訪れた様々な場所で遭遇する事件の数々。何もない空間に「死」という文字を見た後に死んだ男。製本中で発売前の本に残された血痕の謎など五編から成る短編集。

IQ190でありながら世間知らずでちょっと惚けた天地龍之介の活躍するシリーズもこれで6巻目。基本的にはどの短編もある一つの知識を基にして、そこからロジックを組み立てていくという形かな。でも『アリバイの〜』や『溝の中の〜』辺りは読者にも想像することは出来るかもしれない。中でも『アリバイの〜』は奇抜なトリックなどが使われているわけではないが切り分けられた「A」の文字から出発するロジックがシンプルながらもまとまっていて好印象。それから最後の短編の本に残った血痕、という趣向が実際のこの短編集でも使われているけどこれはあまり成功してないかなぁ。単に小説内の趣向を実際にしてみました以上のものは感じられなかった。どれも手堅い、とまでは言わなくてもそれなりのレベルの短編集だと思う。一つ選ぶならやはり『アリバイの中のアルファベット』かな。