『松浦純菜の静かな世界』浦賀和宏

松浦純菜の静かな世界 (講談社ノベルス)

ある事件で負った大怪我のリハビリのため、数年振りに自宅へ帰ってきた松浦純菜。妹との買い物の最中に強盗によって妹を殺され、自らは無傷で助かった八木剛士。彼らの市では死体の一部を切り取っていく連続女子高生殺人事件が起こっていた。それと前後するように失踪した松浦の友達の存在を介して知り合う二人。事件の犯人を突き止めようとする松浦に八木は引きずられていく。

浦賀和宏、一年ちょい振りの新刊。今回は安藤シリーズではなくノンシリーズなのかな? ひとまず上手くまとめられた作品だなと。密室本辺りで頂点に達していた自虐っぷりは影を潜め、前作『透明人間』のようにかなり読みやすくなりつつも、浦賀らしさは損なわれていない、そんな作品。
ミステリ部分も真相自体はそこまで驚きではないけれど、見せ方が上手くなっているのであまり気にならない。何よりさりげなく仕掛けられた時系列の操作がかなり効果を上げている。物語に出てくる題材は割と島田荘司以来の新本格を彷彿とさせるところなんかもあってそうした特徴が同時発売の北山作品にも色濃く窺える辺りがなかなか興味深いと思う。つまり人間は、あるいは人間の部品は交換可能なものであるということ。島田荘司や90年代本格ミステリに見られるその特徴は、それこそミステリのトリックを成立させるために結果として出てきたということも少なからずあったけれど、佐藤や西尾や北山なんかの扱い方はまた違っている。ある種、自明のこととして扱っているわけです。西尾の人物入れ替えにしろ、佐藤の例のロボットにしろ。ただその部分に彼らの特別性を見出そうとすることは間違っている、というか違うと思う。
そういえば〈力〉について書くのを忘れてた。これは元は『アンブレイカブル』ですよね? 僕は観てないのでわからないんですけど。ただこの扱いに関しては少し中途半端かなという印象。松浦の義手は可動装置のないただの義手なのにある程度、自由に動かせるようになったということはサラッと書かれていて気付きにくいし、八木の方も微妙な描かれ方。