『夏の名残りの薔薇』恩田陸

夏の名残りの薔薇

毎年、秋に山奥の古めかしいホテルを貸切にして行われるパーティー。食事の際にいつも奇妙で不気味な話を即興で作って語る招待主の三人の老姉妹。今年もパーティーが開催されるが、これまでとは違ってどこか悪意の漂う中、時間が進んでいく。

ホラーや本格ミステリ、サスペンス、SFなど幅広いジャンルの著作を次々と刊行している著者が本格ミステリマスターズ用に連載したものの単行本。
むぅ、これはかなり面食らう作品だ。しかも粗筋が紹介しにくい。正直、これは本格ミステリとは呼べない作品でその意味では評価しにくいけど、別な視点で読むと、本書の構成は物語の雰囲気作りを一層、高めていると思う。地に足のついていないような、なんとも宙ぶらりんの感覚で進められる途中は面白い。ただ一方で本格ミステリの一つの根底とも呼べる部分、人間の記憶ということの不確定さを書き出しているという点では本格ミステリから見ても無視できない作品だと思う。ロブ・グリエの作品からインスパイアされたということもあるので作者がどこまでその辺りに意識的に書いたかは判断しづらいんだけど。西澤保彦なんかが喜んで書きそう。
あと、三人称多視点の叙述形式をすごく上手く利用している。この形式で書くと、登場人物の外面描写が複数の人物によって行われるから読者は無意識のうちにその描写こそがその人物を表している、と思ってしまう。その陥穽を実に上手に利用しているなと。まぁこれもどこまで本当なのかはわからないけど。
でもどちらの読み方をするにしても物語の終わり方がちょっとよくないかな。途中にいくつも差し挟まれる映画(シナリオ)を活かしたいというのはわかるけどやっぱり映画通りの結末のつけ方にするのはなんともいただけない。映画とは前提が違うわけだし。