『S.T』The Brotherkite

『S.T.』THE BROTHERKITE

もうね、今年のベスト決定。久しぶりに背中の下から首までゾゾゾッて来る新人バンドに出会った。
音はずばりシューゲイザー。感じとしてはエモとかギターポップみたいにキャッチーなメロディーにマイブラのようにひたすらギターのフィードバックを重ねて、そこにきれいな男Voが乗っていく形。SONIC YOUTHとかRIDEほどシニカルでもなく、かといってマイブラSLOWDIVEのように彼岸にまで行ってしまわず、でもpia frausのように幸せ一杯でもなくっていう絶妙の温度。
まるでSTONE ROSESの1stの始まりのように徐々に大きくなるシンセの音から厳かにギターが始まり、サビの部分で轟音ギターの爆発と共にメロディーが一気に広がるM-1DOVESの名曲”POUNDING”のようなギターで始まり(DOVESより断然ギターが大きいけど)すごくキャッチーで疾走感のあるM-2。RIDEとかエモが好きな人は絶対に気に入るはず。三曲目はギターとVoだけのシンプルな曲。でもそのギターのリフがまた気持ちいい。そしてM-4からはもうギターの音が半端じゃなく鳴り響いてる。素晴らしいまでにドラマチックでつぼ突かれまくりの展開のM-4、これまたRIDEのような疾走感のあるM-5。M-6はマイブラを彷彿とさせるフィードバックギターのサビと枯れた味わいの静かな部分との対比が最高。間奏のギターリフのシャワーは個人的にこのアルバムのハイライトかも。続いてはグランジぽいギターがSONIC YOUTHなんかを思わせる最もロック寄りのM-7。そしてラストM-8はシンセと濁りのない透明なVoで荘厳に始まる。水の中で鳴らされてるような少しくぐもった音から、パッと流れてくるクリアなギター音はほんと鳥肌モノ。その後もシンセとギター部分の切り替えが効果的に使われていて、POPかつ幽玄なサウンドが気持ちよすぎる。フェードアウトしていくギターと、その後に残されるシンセの音という後ろ髪を引かれるような終わり方も完璧。ほんとに最高の一枚だと思う。聞いててうれしいのと切ないので涙出てた。
どうしてシューゲイザーサウンドはこんなにも切ないんだろうか。それはきっと世界と自分自身のどうにも埋められない距離を改めて意識させるからだ。自らが認識する周りの世界は、成長するにつれどんどんとその枠を広げていく。そしてそれは時として自らの処理能力を超えた速度で進んでいく。きっとシューゲイザーで下を向いてギターをかき鳴らされるのは、手の届くところにあると思ってた境界が、いつのまにか遠くにいってしまっていたことを確かめるのが怖いからだ。でも例え、確かめなくても頭ではその境界が目の前にないことを認めてしまっている。だからギターをかき鳴らす。まるで自分と世界との隙間をギターの轟音で埋め尽くすかのように。そしてその音がいつまでも続くことを願って、フィードバックを果てしなく続かせる。でもいくら音を鳴らしても隙間は埋まるわけじゃない。音はいつか消えてしまう。音が消えた後には、何も変わっていない隙間がそこに待っている。ただ、瞬間的であれどうにかしてその隙間を感じなくさせることは出来るんだ。それがわかっているから、シューゲイザーを聞くことはどうしようもなく切ないし、うれしい。
ほんとにいい作品に巡り合ったと思う。シューゲイザーが好きな人だけじゃなくギターロック、ギターポップ、エモなんかが好きな人は気に入るはず。というか「やっぱりギターが好き!」って人はぜひ。