『太陽と戦慄』鳥飼否宇

太陽と戦慄 (ミステリ・フロンティア)

バンド<ディシーヴァーズ>は泉水和彦がストリートキッズで結成したバンドだった。自らを「導師」、メンバーを「使徒」として彼らに危険思想を吹き込んでいく泉水和彦だったがバンドの初ライブの最中に密室状況の楽屋で死体となって発見される。事件の真相は謎のまま、バンドは解散し、メンバーはバラバラになる。それから十年後、列車爆破事件の現場でメンバーの一人の体の一部が見つかった。それを境にバンドオリジナル曲の歌詞をなぞるように百貨店への放火、ホテルの爆破と次々と事件が。そしてその現場にはいずれもかつてのメンバーの死体と動物の玩具が残されていた。メンバーの一人が導師の教えを今になって実行しているのか、それとも・・・。

横溝正史ミステリ大賞優秀作受賞作『中空』でデビューして以来、本格ミステリの中心というよりそのコアから微妙に外れるような作品を発表してきた著者の最新作。今作も例外ではなく、著者の狙いは本格ミステリ、あるいはミステリの謎ではなく新興宗教(というよりカリスマとしての教祖)やその狂信的な信者の姿を書くことにあったと思う。もちろんそれだけではこれまで多くの作品が書かれてきているし、新味はない。しかしこの作品には奇妙なリアルさと白昼夢のような感覚が宿っている。これは導師の思想の広め方にあるだろう。彼は自らの思想を使徒に説くだけで、よくある新興宗教のように(偽の)奇跡などは行わない。ただ一つの手段として過去の偉大なロックとの関連付けをしていく。マーク・ボランの生まれ変わり、などのように。裏を返せば、カリスマ性があれば手段などはどんな形でもいい、ということではないだろうか。メンバーの一人がいわゆる一般的な新興宗教(つまりここでは詐欺紛いのもの)の教祖の息子で彼が成長するにつれ、そこが落ちぶれていくのはその対比として書かれているはず。詳しくは書けないけれど、物語の結末もその二つの対比を裏付けている。その意味では面白い作品。本格ミステリを期待して読むとかなり肩透かしを食うと思います。バンドの名前とかがかなり出てくるのでその辺りが好きな人はにやにや出来る、かも。