『監獄島』加賀美雅之

監獄島 上 監獄島下 (カッパノベルス)

南フランスは地中海に浮かぶサン・タントワーヌ島。この島には16世紀に建てられた城塞を利用した監獄が存在した。長期服役者が主に受刑しているこの監獄には過去にベルトランが逮捕した国際的犯罪者ボールドウィンも収監されていた。ここで何らかの陰謀が進行しているとの謎の手紙によって、島を訪れたベルトランたち。彼らがボールドウィンと面会した翌日に事件は起こった。彼を閉じ込めていた館で看守長が死んでおり、その建物には内部から鍵がかけられていたのだ。そして姿をくらましたボールドウィン。こうして監獄島での惨劇が幕を開けた。嵐のために本土との連絡が断たれた島で次々に殺されていく人々。さらにはそのどれもが不可解としか思えない状況で行われていく。犯人は何のために殺すのか、どのようにして不可能を可能にするのか、玩弄された死体の意味とは。

KAPPA-ONEでデビューした加賀美雅之の第2作。前作に引き続いて、カーのバンコランを彷彿とさせるベルトランが探偵役を務める。いやよかったです。前作も古典的な本格ミステリ、いわば「探偵小説」だったけど、この作品もまた「探偵小説」ど真ん中で、その辺りが好きな人にはたまらないはず。しかも雰囲気だけではなくて、作品としての質も高い。作中のほとんどの犯行が不可能犯罪なんだけど、割とこういうものに限って意味のない密室だとか(犯人にとって)ほとんど役に立たないトリックが使われてたりする。でもこの作品ではそのどれもがきちんとされていて、意味の無いものはないといっていいかも。
あえて難点をつけるとすれば、新しさがほとんどないところだろうか。多くは過去の様々なトリックの変奏といえるのでミステリを読み慣れた人は犯人、トリック共に早い段階で見当がつけられるだろう。実際、上巻の時点で犯人といくつかのトリックは見破れてしまった。でもおそらく作者もそうしたことはわかっていて、様々な捻りを加えてきてくれる。いくつかのことには盲点を突かれて、なるほど!という感じで、その辺りの呼吸は見事。あと少し付け加えるなら、過去の所長死亡の部分がちょっと余分というか中途半端だったかな。たぶんオカルトの要素(おぉカー!)も盛り込もうとしたんだろうけど、その部分の分量が少ないので印象が薄くなってしまってると思う。どうせならもう少し本編に絡めてほしかった。かなりの読み応え(上下で約1100p、しかも2段組)がありますが、読んで損はないと。昔懐かしい探偵小説を楽しむことができます。やっぱりこういうのもいいよね、という気分。
そういや読んでてなんだかフーコーを思い出した。だって17世紀から監獄として使用されるようになってて、しかもその監獄が中心に高い塔があってその周りの建物が隅々まで監視できるようになってるんですよ。独房は見えないけど。いや、パノプティコンを彷彿とさせるじゃないですか。17世紀から監獄として使用って『狂気の歴史』じゃないですか。しかも歴史学者が登場するっていうからもしかして、と思ったら案の定というか全然関係無かった(笑)
これでKAPPA-ONE第1期の4人中、3人が2作以上出したんですが。林泰広は?あの人の新作を待ち焦がれてるんですが…。