『アンテナ』くるり  

アンテナ
くるりの音はいつもジャストだ。
僕はくるりを聞くたびにそう思う。
よくサイケなんかの音を評して聞き手を夢幻の世界に誘う、みたいなものがある。でも例えどんな音楽でもいい音楽ってのは、レコードに針が落ちた瞬間から、オーディオのプレイスイッチを入れた瞬間から、聞き手をそれぞれの音の世界に連れていく。僕はそれがいい音楽だと思ってる。
くるりの音がジャストというのは、そういう意味においてだ。彼らの音が連れていってくれる世界は、どこまでいってもほとんどいつもの日常と同じ風景が広がっていて、また現実を映し出しているように、どこか憂鬱で退屈で淡々と冷めている。この新作は全体的にゆったりとしたテンポで進んでいき、そうした世界がより日常に近づいている気がする。ただクリストファーが加入したことでよりバンドサウンドになっていて、打ちこみを使った先の作品よりは温度があって、その点では少し残念なところも。前作も出た当初は地味なアルバムとか言われたけど、今作はさらに地味な感じを受ける。でもそれがいいんだ。
これまでのシングル曲に比べて「ロックンロール」「HOW TO GO」は地味なシングル曲に見えるかもしれない。けど、その2曲をこのアルバムの中に置いてみると輝いている。きっとこのアルバムに個々の世界を一新させるような力はない。でも少なくとも、こたつのスイッチを入れたときに電灯が一瞬暗くなるくらいの変化はあるはずだ。そして、そのわずかな変化こそが僕らには必要なんだ。そんな僕らの2004年のロックンロール。