『屍鬼』小野不由美  

屍鬼〈上〉 屍鬼〈下〉

小野不由美の大作を読了。
厚さに2年ほど躊躇してたんだけど、上下巻をほとんど徹夜で一気読み。それだけ物語として面白かった。僕は小野不由美の作品は『黒祀の島』と『くらのかみ』しか読んでないんだけど彼女の文体が好きなんだろう。日本、しかも因襲が残っているような場所を舞台にしているというのもあるけど、日本のじめじめとした湿気を思わせるような濃密でじっとりとした文体。この作品ではそうした文体がすごく効果を上げていると思う。
この作品を評して上巻がやたら長いというけど僕はそうは思わなかったし、さらには下巻よりも上巻の方が恐かった。外場村の様々な人物の模様が語られ、村と彼らの家族の崩壊が決しておろそかにされずに書きこまれていく。村で何が起こっているのかわからない不安(もちろん話の題名や流れから想像はつくけど)やあまりにもあっけなくそれぞれの家族、そして村が崩壊していくこと、そしてそのことに比較的無関心な村人たち。僕はずっとベッドライトだけで読んでたんだけど、読み進めるうちに部屋の闇が少しずつ深くなると共にその容量さえも増してくるように感じていた。作品内の村だけでなく、自分までもが何かに包囲されているようなそんな漠然とした恐怖。
変わって下巻に入るとそうした恐怖は薄れていき、やるせない悲哀が胸を打つ。これまでの崩壊とは違う別な意味での崩壊に向けて、着々と文字が埋められ物語が進んでいく。先が見えているのに一ページずつ目に焼き付けていかなければならない悲哀、先がわかっているからこその悲哀。そして物語はある種、予定調和ともいえる結末へとなだれ込む。その悲劇的な結末に対して僕は語る術を持たない。何故なら僕はどうあがいても人であって屍鬼ではないから。ただただ胸につかえるいい作品を読んだ。言えるのはそれだけの気がする。
今は五分冊で文庫も出てるけど、出来ればハードカバーで一気に読んだ方がいいかも。感じる重みが違うものになりそうだから。